「作戦終了だな!」
虎はそう言うと川を塞き止めるように生えた巨大なツタを叩き切る。
それと同時に、今まで行き場を無くしていた水は下流へと流れ始めた。
木の上から一人の獅子が降りてくる。
「グレイ…少しは周りの環境を考えて戦ってほしい、かな…」
苦笑いしながら服の汚れをはらう。
「そうだよ兄貴。この近くは人が来なくて珍しい草木が多いから。下手に火を飛ばすな」
ノートに何か書き込みながら、もう一人の虎が言う。
「大丈夫!飛んでった火は全部消したよ!」
元の流れに戻った川の水でピチャピチャと遊び始めている犬が、自慢げに手を上げた。
「くっ…。す、すまん。次から気をつける…。と、とりあえず仕事は終わったんだから、戻ろう。な?」
あぁ。やっぱり俺って魔法苦手なんだよな…。トボトボとみんながいる場所に歩いて行く。
「でも。今回の仕事はグレイがいなかったら困難な仕事でしたし、いてくれて助かりましたよ」
獅子に気遣いの言葉をかけられ、照れながらも尻尾を振る虎のグレイ。
「クラムさんは兄貴を甘やかしすぎだよね、シン君」
水遊びをしていた犬のシンを呼び寄せ、体を拭いてやる。
「ねー」
虎に拭いてもらった場所はすぐに乾き、グレイの下に駆け寄る。
「私はそんなつもりありませんよ。ジェイス」
獅子のクラムは笑いながら答えた。
虎のジェイスも冗談です。と笑っている。
「グレイ!俺お腹空いた!早く帰ろう!」
足にじゃれ付き、ズボンを引っ張る。
「おう!昼飯はなににするかな」
じゃれ付くシンを抱き上げ肩に乗せた。嬉しいのか、ハンバーグ!と連呼している。
「では、帰りましょう。みんな待ってますでしょうから」
クラムがポケットの中から鈍く光る石を取り出した。
「…11時45分。予定より早くてよかったですね」
石が激しく光を発する。それと同時に地面が回転するような感覚になる。
目の前の仮面が声をかける。
「おかえり」
「ぅわっ!?」
至近距離で現れた仮面にグレイは驚き、後ろに倒れた。
「うきゃぁ!」
と同時に、突然の大きな揺れに悲鳴をあげるシン。
「だっ…!いきなりの至近距離は止めろよっ!」
「…なにを言ってる。グレイがいきなり僕の前に出てきたんだろ」
手に持っている辞書…というか浮いている辞書をグレイの頭にコンコンとぶつけ、クラム達の方を見る。
「仕事は問題なくこなせましたか?」
「はい。ハームの読み通り、異常成長した蔦類が原因でしたから楽に出来ましたよ」
「それで、今回の地域の状況を俺がなんとなく見てきたけど、あの地域は亜熱帯で周辺にも多くの………」
知識人達の話し合いが始まる。
「…なんであんなに話せるんだろうな…?」
「むー。グレイ、俺驚いたぞ!倒れないでよ!」
肩にしがみ付いているシンがバタバタとグレイの頭を叩く。
「すまんすまん! よし、3人はほっといて飯食べに行こう」
「そうだよ!ハンバーグが待ってるんだから」
離れようとしないシンを肩に乗せたまま、体を起こす。
相変わらず魔法を使った後は力が上手くはいらねぇや。
そんな事を思いながら、話し合いを続けている3人を置いて食堂へと向かった。
食堂は…3階で、今ハームがいたって事はここは5階だな…。
エレベーターの前に立ち、下のスイッチを押してシンを見上げてみる。
「ねーグレイ。グレイはご飯なににするの?」
グレイの視線に気付いたシンが尻尾を振りながら聞いてきた。
「俺はー、オムハヤシにでもしようかな」
「オムハヤシもいいなぁ。でもハンバーグも待ってるのに、どうしよう!」
「シンいたい、いたい、いたい」
真剣に悩んでいるようで、頭の毛が強く握り締められている。
それと同時にエレベーターが到着して扉が開いた。未だに手を離してくれないシンの背中を押さえて、少し小走りになりながら中へ駆け込んだ。
地味な痛みが続くなか、とりあえず3階のスイッチを押す。いたい、やばい、ハゲる。
「しっ、シンっ。俺のとちょっと交換しないか? そ、そうすればどっちも食べれるぞ」
「あっ、そっか! グレイいいこと思いついたね!」
パッと手の握力が弱まり、やっと痛みから解放された。
危ない危ない。本気でハゲるかと思った。