「対を成す火」

 グレイ・デスパレット ジェイスロン・デスパレット

 

 

カツ。カツ…。

薄暗い部屋の中に一定のリズムでペンの音が聞こえる。

少し開いた窓からは月が顔を覗かせて、夜の街の音がする。

時折近くを通る車の音が響くが、もう馴れてしまった。

「…約3000年前の遺跡には火を神聖なる物として敬っており、…火を体内に取り込む…儀式…」

机に向かって、もう何時間が経っただろうか。

時計の針は午前2時をさしている。

「…歴史文明のレポートなんか出来るわけねぇよ」

黄と黒の縞模様の腕がペンを投げ捨て、その頭をかく。

机の周りは汚く、服やゴミが散乱し足の踏み場が無い。

机の電気を消して大きく背伸びをする。少し骨を鳴らしただけで眠気がどっと襲ってきた。

窓を閉めて、するりとベッドへ潜り込む。そして1分もしない内に寝息をたて始める、大柄な虎。

そのベッドの横、部屋を仕切るように置かれた棚の隣にもう一つのベッドがある。

小さめの目覚まし時計が置かれており本などが多くあるが、かなり整理が行き届いている対照的な部屋。

そのベッドの中には既に寝息をたてている、やや小柄な虎。

 

対を成す火。

 

「起きろ」

……んぁ?

「…起きろ」

…んん…?

「起きろって言ってんだろが!」

「!?はっ、はうばあああ!?」

ベッドから転がり落ち、床に顔面を強打するグレイ。

「…おはよう、兄貴」

バサバサとベッドシート持ち、ベランダへの歩いていくジェイス。

「いっつぅ…。だから、もうちょっとマシな起こし方はできねぇえのか!?

体を起き上げ少し涙目になりながらシーツを引っ張った犯人を指差す。

「普通じゃ起きないからいつもこうなるんでしょ。…ご飯できてるよ」

シーツをベランダに干し終わりテーブルに朝食を並べていく。

「…ったく。それが兄貴に対する態度かよ」

ぶつぶつとぼやきながら用意されたトーストをくわえテレビのスイッチを入れる。

「兄。って言ってもほんの10秒だよ」

椅子に座って朝食を食べ始める。

「うっせ。10秒でも兄は兄だ」

そんな言葉には聞く耳も持たず。ホットミルクを飲みながら耳をピクピクさせている。

好きな物を食べる時のジェイスの癖だ。

そんな様子を見ながら、目の前にある目玉焼きとウィンナーを口にかきこむ。

ジェイスに意地汚いって言われた気がしたけど気にせずテレビのチャンネルを回していく。

 

 

大きな山の下にある、小さな村。ここで2人は生まれた。

「命桜山(:めいおうざん)」と呼ばれる山は昔、活火山であったが今は静かな姿を見せている。

山の付近は土の状態がよく農業が盛んな村。

そんな場所で育っていった双子は対照的だった。二卵性という事もあったが、全てが逆な双子だ。

そんな2人も大学に進むことになり村を出、離れた街へと引越す事になった。

街での生活は馴れないものが多く戸惑いも多かったが、3ヶ月が経ち日常となっていた。

「…遺跡、…に儀式」

無意識にそんな事を呟く。

「…やっぱり終わらなかったんだ」

食器を片付け、残りのホットミルクを飲みながらジェイスが言ってきた。

チャンネルはジェイスに変えられて、テレビではニュース番組をやっている。

「まーな。俺に歴史なんて無理だろう。俺のなかでの歴史ってーのは、じーちゃんのおとぎ話くれぇだよ」

そう言うと、テーブルに突っ伏してうなだれる。

「……あるところに、全ての力を収める優しい神様がいました」

グレイは顔を上げてジェイスを見る。当のジェイスはテレビを見ている。

「じーちゃんが昔してくれた話だね」

マグカップを手に取り、ニヤニヤする。

グレイが不意に何かを考え、口を開いた。

「この話って、最後どうなんだっけ?俺、最後だけ覚えてねぇんだけど」

その問いにジェイスも考え込む。

「なあ、ジェイスも覚えてねえ? 途中までなんだよな、記憶」

「……神様がいました。神様は3つの場所、3つの命を生み、世界を創った…」

「…で、どうなったんだっけ?」

肩をすくめ首を傾げる。どうやらジェイスも記憶に残っていないようだ。

「なんでだろうな。もっと長かった気ぃするんだけど」

「…。ここの地域はずっと昔、太陽を神として崇めていたっていうのは分かる?」

「ぇ? …寝る前にちょっと読んだな、火が神聖なものだーって」

「うん。確か話の中に火と水、土、風の四元素なんかが出てた気がするんだ」

「あー。ぁー?4つだけだっけか?」

と、ジェイスは顔を渋らせて、あれ?といった顔をしている。

 

「…でも、この地域は火についての歴書しか残っていなくて、遺跡になんかにもその他3つの元素に関することが残されていないんだよな。

 ……そうなると、なんで昔の話に4元素が出てきてるんだろう…。

 科学の歴史では基本的物質の源と研究されてきた四元素なのだから話には出てくるはする、としてみて。

 火は四元素の中でも一番軽い、いわば頂点ということでそのシンボルである太陽を神としたのか。

 でも、兄貴が言ったように話には4つだけではなかった気がするし…。

 仮に4つだけではなかったとすると、前論は成り立たないしなぁ。…あれ、兄貴?」

「…お前何語喋ってんだ」

気付くとグレイは頭を抱えて机に伸びきっていた。そんなに難しい事は言ってないと思うけどな。

「とりあえず、この話はおしまい。兄貴のせいで調べなきゃいけないことが増えちゃったじゃんか」

マグカップに残っていたミルクを飲み干し、俺のマグカップも一緒に流しへと持っていく。

「なんだ人のせいかよ。 どうせ昔話なんだから、話が変っちゃってたーってパターンなんじゃねぇかな」

ぐでーっと後ろに寝そべり、皮肉っぱく話を終わらせようと思った。

 
 

 

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